馬鹿と煙

「じゃあ、気を付けて」




「また連絡する。終電あるから送ってもらわなくていいよ、お休み」





「ん」




別れ際ドアに隠れて、彼はキスをくれる。
粘膜の接触のない、乾いた、挨拶のようなキス。









「カスミのそういう感受性豊かなところ、好きだよ」





「なにが?」




「蝉」




「うざくない?」





「うざくない」





彼はまたもや小さく笑う。
品良く、それでいて悪戯に。










彼の後ろ姿も目で追わずに、ドアを部屋へと早々に引き寄せるのは






割り切っているから。