わたしがあいつの視線に気付いたのは、通学電車の中だった。


運良く座れたのを良いことに、大好きな携帯小説を読みふけっていたのだ。

『ゴンドールの大陸』、携帯小説とは思えない壮大なスケールのファンタジー。
悲運のリンティアの明るさに勇気付けられ、非道なしうちに怒り、その愛の行方に恥じらいながら、多分かなり百面相的にあたしは挙動不審な状態だったと思う。

仕方ないじゃない、面白いんだから!

ふと、眉間に熱を感じて顔を上げた。

自分でも不味いな、って思いはあったから。



そしたらあいつと目が合った。



わたしと目を合わせた瞬間、あいつはそりゃぁ恥ずかしいくらいに腹を抱えて笑い出した。

あたしの立場はどうなるのさ、って感じ。

笑ってるあいつも、相当恥ずかしいけどね。


かぁっと、顔が赤くなるのを感じたけど、もうどうにもできなくて、降車駅の一つ前で降りる羽目に。