先の荒々しい攻防を経ても尚、呼吸を乱すことはない。無言の視線が交錯する。


 肉食獣を思わせる、赤みがかった鋭い眼光。ベベリギアと呼ばれた男は、頭部以外の全てを真紅の鎧に包まれている。
 鎧が背負うは白銀の鞘。
 特殊な装飾を施されたそれは、背丈も横幅も持ち主とほぼ変わらない。いわゆる大剣である。


 天に向かって上る紅蓮のオーラ。肩まである赤い髪がそれに揺られ、まれに覗く金色の、ひし形のイヤリングもその身をよじっていた。
 また、激闘によって残された痛々しい穴が、首に巻かれた長いマフラーに点在していた。


 《紅蓮の絶火》。
 《群青の水爆布》。


 この二人はこれらの二つ名を所持している。
 《神話の主要人物》である二人。
 無人の世界を飛び、次元を越え続ける二人が求めるものは、《あらゆる願望を実現する姫》。


 そして今も、二人の《神》は順調に、世界の崩壊を実現させていく。


「貴様がここに現れたと言うことが、《忌み姫》がこの世界に居るという証。俺は今、貴様と戯(タワム)れている暇など無い!」


 言下。
 真紅の鎧が右腕を突き出した。
 半瞬待たずして展開された紅蓮の陣。黒曜の手袋が最大限まで開かれ、目前の陣の枠内――文字盤のような形状――で踊る、解読困難な真紅の光を放つ文字に平手を打ち付けた。


 スペリシアに向けて一際紅く輝いたかと思うと、その紅蓮の陣――《魔法陣》から、灼熱の火柱が解放された。


 紅蓮の奔流がスペリシアへ直線状に伸びていく。その間、灰と化した大地さえも更に炭化させ、黒く染め上げていった。



 そんな荒々しい男とは対極に位置する女性、スペリシア。
 青いドレスに透き通るような薄い衣。それが両腕に垂れ下がり、神秘的な雰囲気を漂わせる。
 端正な顔立ちに浮かぶ穏やかな微笑。
 左腕が右肘を抱える形で、ベベリギアへ投げ出された右手は、今にも灼熱に食されようとしていた。


「うふふ。でしたら、あなたが消えたらどうです?」