紫乃は、自分の心に安らぎをくれる人を見送った。


 》


「随分とてなづけたものだな。」


 車の後部座席で運転席の秘書にイヤミを言う。


「翔さまがお優しくしないからです。」


 淡々と答える。そんな秘書が少し気に障(さわ)った。


「優しく…嗤わせるな。じゅうぶん優しいだろう。」


 ルームミラー越しに秘書を軽く睨みつけて嗤って見せた。
 秘書は、黙った。


「哭(な)けなくなるまで、どれくらいか……賭けるか?」


「翔さま。」