あの少女を村に返してから、10年たった。                                                            未だに俺は、この森から一歩も出たことがない。妖怪は恋人ができれば自由にこの森から出て行けたりするんだけど、恋人どころか人間の友達さえいない。もう高1なのに学校さえも行かせてもらえないので、今は世の中で必要になることだけを妖怪に教わっている。                                        尻尾や耳は自由自在に出したりしまったりはできるようなった。                                                   そんなある日俺が森を散歩しているときのこと。一台のバスが森の入口で止まり、見知らぬ女の子がバスから出てきた。歳は多分俺と同じくらい。女の子は、何の迷いもなく森に入ってきた。                                                                          「おばあちゃんによればここに妖怪たちが集まるからって聞いたんだけどなあ?」                                            この子は何をしに来たんだろう。俺は話しかけたかったけど、妖怪の俺が目の前に飛び出すときっと驚くからやめておく。女の子は、バッグを振り回しながら言った。                                             「またあの子に会えるかな。」                                                                  女の子は思わず振り回していたバッグを放してしまった。そのバッグは俺に激突した。                                         「いて!」                                                                          女の子は直ぐに駆け寄ってきて、俺のもとに来た。                                                         「ごめんなさい。怪我はないですか?」   「だ、大丈夫だよ。はい、バッグ。」                                                               俺は女の子のバッグを渡した。その女の子は俺をまっすぐ見つめて言った。                                              「あの・・・、ここって妖怪が住む森なんですよね?ここにいて大丈夫なんですか?見た感じ、なんにも持たずにいるから。」                                                               俺は彼女の真っ直ぐな瞳から目をそらして言った。                                                          「お、俺はここの住民だから・・・。」                                                             女の子はびっくりして目を見開いた。そして、俺に言った。                                                     「そうなんですか!?じゃあ、あなたは妖怪・・・。」                                                       俺はなんて答えようか迷ったけれど、ここの住民って言った限り違うとは言えない。                                           「そうなるかな。そんなことよりもあんたはなんでこんな森に単身で入ってきたんだよ。人間が一人この森に入ることは、魚が自分で猫に食われに行くようなもんだぞ?俺はともかく、他の妖に見つかったら襲われちまう。」                                                         女の子は、一瞬暗い顔をしたけれどまた元気な声で話し始めた。                                                   「私、小さい頃にこの森で迷子になったことがあってある妖怪に助けられたんです。姿は人間なんですが、頭にふさふさの耳がついていて九本の尻尾がはえている妖怪です。その妖怪はおばあちゃんによると、人間を化かすのが得意な九尾の妖狐だと聞きました。まだあの時助けてもらったお礼もしてないし、それに私あの九尾の子に初恋をしてしまったんです。だから、また会えないかなと思い再びこの森に足を運んだんです。」                                               多分この子はあの時助けたのがこの俺だと気づいていないのだろう。むしろそのほうが追い返しやすい・・。                                                                      「あのさ、もう日が暮れるからそろそろ帰ったほうがいいぜ。夜になると凶暴な妖の連中が起きてくる。」                                                                        「大丈夫です。そんな時のためにおばあちゃんから札を15枚もらってきてるんです。いざとなったらこれで退治します。」                                                                「そんな簡単に倒せる連中じゃないんだよ。雑魚なら簡単に倒せるだろうけど、凶暴なやつらはそんなものものともしない。だからお願いだ。帰ってくれ。」                                                 「私は帰りません。あの人に会うまでは。それにこの近くに親戚の家があるのでそんなに心配しなくても・・・。」                                                                    俺は女の子の肩を掴んで地面に倒した。なぜなら草陰から妖の放った毒槍が飛んできたから・・・・。