みお「みんな・・・寝ちゃったね」



廉「そーですな」



廉は1人でビールを飲みながらぼんやりしていた



皆は自分の好きな事 やりたい事あるみたいだけど



廉はどうなんだろう?




みお「廉は好きな事とかあるの?皆みたいに」



廉「俺?俺は別に何もないよ。現状維持」



そう言って胸ポケットに入っていたタバコの箱を出して



1本だけ火をつけて煙を吐いた



廉「それほど好きなものとかそういうのないから。俺は」



みお「ふーん。そうなんだ」



廉「みおは?あんの?そーいうの」



みお「私?私は・・・特にないけど」



廉「じゃ俺と同じじゃね?」



みお「まぁ・・・うん。そうだね」



そうだ



確かに私には何もない



好きな事も、“これだ!”っていうものも



実際はそれどころじゃなかったっていうのもある気がする



なんとか普通でいる事に必死だったから



それって・・・やっぱりおかしいのかな
















廉「俺はさ自分に色んな事かけたくないわけよ」



みお「どういう意味?」



廉「俺は未来を見て生きてるわけじゃないんだ」



みお「じゃ・・・どこを見てるの?」



廉「“今”だよ」



みお「“今”?」



廉「そ。俺に必要なのは“今”のこの時だけなの」




みお「・・・何か難しい話だね」




廉「分からないけど。ま、色んな人間がいるよ」



そう言って吸っていたタバコを灰皿に押し付けた



うーんと伸びをして席を立とうとした廉



みお「どこに行くの?」



廉「トイレ。みおも一眠りしとけば?」



みお「あ・・・うん。そうする」



廉が座敷から出て行ってすぐ私は目を瞑って机に伏せた



皆の言葉が頭の中でぐるぐるしている



私もいつか 見つけられるのかな



好きな事



あんな風に輝けるのかな




気付いたら意識がなくなった


















フッと目が覚めて顔を上げた



私・・・寝てたみたい



部屋を見渡すと泥の様に寝ている皆



あれ 廉がいない



トイレからまだ戻ってきてないのかな?



もしかして気持ち悪くてトイレで動けなくなってるとか



心配になった私は皆を起こさない様に静かに座敷を出た














トイレを探してお店の中を見渡していると声がした



由美「廉。私の事どう思う?」



え 由美さん・・・?



チラっと除くと壁にもたれてる廉と



廉の前に立っている由美さんがいた



廉「どうって?」



由美「私の事・・・好き?」



廉「・・・・・・」



由美「ねぇ・・・キスしよ」



すると由美さんは廉にキスをした



ちょ・・・ちょっと待って



由美さん 廉にキスしてる?



え 待って待って どういう事?



いけないものを見いているのは分かっているはずなのに



どうしても体が動かない



由美「私の事・・・彼女にして」



廉「彼女?俺の事好きなの?」



由美「うん。大好き。廉のそばにいたいの」



廉「そ・・・」




廉は一度目を伏せた 



すると顔を上げて由美さんにこう言った













廉「いーよ。彼女にしてあげる」












そのまま由美さんは廉に抱きついた



廉の腕は由美さんの背中に回っている



由美さんと廉・・・



恋人同士になったみたい



やっと体が動いて私は出来るだけ静かに座敷に戻った



テーブルに置いてある飲みかけのビールを一気に流し込み



口の中にビール独特の苦味を感じた




みお「っぱぁ・・・・・・ふぅ」




私って 見なくていいもの見たんじゃないかな



そんな気がして仕方がなかった



だっておかしい



胸の中がざわざわしてるの



廉が戻ってくる前に普通にならなきゃ



ギュッと瞑った目の奥でさっきの2人のキスシーンが写っていた



お願い私 早く 早く





























「・・・い みお」




みお「んっ・・・」



誰かが呼んでる  私の名前



男の人の声だ 優しい声



あれ・・・ねぇ待って その声って




みお「お父さん!」



太郎「へ?」



ガバっと勢いよく起きた私はあたりを見渡した



そこにいたのは清水さんだった



太郎「ごめん・・・びっくりさせちゃった?」



みお「あ・・・いえ、すみません。何だか寝ぼけてるみたいで」



太郎「いいよ。全然。皆あっちで朝飯食ってるから食わない?」



みお「朝・・・?もう朝になったんですか?」



太郎「うん。田中さんだけ起きないから様子見に来たの」



みお「すみません。今から行きます」



太郎「おう」



清水さんは私を起こしに来てくれたみたいだった



座敷を見渡すと誰もいなくて



昨晩のビール瓶やグラスやお皿も全部片付いていた



由美さんが・・・綺麗にしてくれたのかな



あぁ やめやめ



頭をぶんぶん振って考えるのをやめさせようと自分に言う



みお「うぁ・・・お酒回る・・・」



完全に二日酔いだ



今度から気をつけなきゃ



簡単な身支度を済ませて私は座敷から出た