愛しい人~歌姫の涙~

その日の夜、私はいつもの場所で歌っていた。

一曲歌い終わるごとに、昼休みの終わりに見せた由美子の寂しそうな表情が思い出され、少しだけ胸が痛くなる。

彼女はクラスでも人気者で、ソフトボール部では入学して一週間も経たないうちにレギュラーになり、早くも充実した高校生活を送っているものだと思っていた。

しかし、あの表情は確かに寂しそうに見えた。


ある意味で、与えられたものをやっているだけ


確かにそう言った。

この言葉の意味はあのときも今も私には分からないが、この言葉には何か由美子の寂しい表情と関係がある気がする。