愛しい人~歌姫の涙~

「そんなことない。

一生懸命だとか、自分に嘘をつかないとか、由美子が思っているような立派な人間じゃないよ」


言葉につい力が入り、思わず由美子に向かって前のめりになってしまった。

由美子と目が合ったとき、二人の顔の距離があまりにも近づいていたことに気付き、慌てて少しだけ遠ざけた。


「ごめん」


またしても、由美子は大人びた笑みを少しだけ見せた。

それを見ると、胸が張り裂けそうになり、切ない気持ちになってしまう。



彼女は一体、いつ、どこでこの表情をするようになったのだろう。

きっと、自分で意識することなく自然なままなのだろう。

豪快に笑う彼女も、大人びた笑みの彼女も、どちらが本当とかそんなものではなく、どちらも本当の彼女なのだ。

これが常神由美子という一人の女であることに間違いはない。