ひとり残された
机と、椅子だけの部屋。





背を向けたままのドアの向こう側で、遠くなる足音。









「……」










紅い月が……。
あたしを睨みつけるようにビルの間から顔を出している。

ここに来る前に感じた違和感は、それだった。






濡れて火照ってしまった身体を、あたしはどうする事もできないまま。


ただ茫然と、動き出せずにいた。










どこかで誰かが言っていた。

青い月の光は、地球の空気を通る間に、錯乱されてそう見えるって。

赤い光は、乱されないって。






今まで優しかった英司。
それは青い月の光で……。
あたしは色んなものに惑わされてそう見えていただけで。


ほんとの英司の気持ちを、何も知らなかったのかもしれない。