――……ドクン
彼は、男。
初めて隣に越してきた夜。
何度も何度も女を抱いていた、まるで野獣のような人。
忘れていた……。
まるで体全体が心臓になったみたい。
この状況をなんとか打破しようと、必死に頭に血液を送り出してるみたいだ。
そうしないと、きっとあたし、ここが地上何十メートルだってことも忘れて彼を突き飛ばしちゃうだろう。
千秋は、挑発するみたいに口元を緩めると
少しだけ上からあたしを見下ろした。
「菜帆さ……俺を、煽(あお)ってんの?」
「え?」
煽る?
何言って……。
「そんな顔して、俺にどーして欲しいワケ?」
「は?」
意味わかんない!
そんな顔ってどんな……。
なんとか千秋から視線を逸らした。
ゴンドラの窓ガラスに映る自分と目が合う。
「……」



