『ごめん、菜帆。 今日も仕事の用があって……』



携帯の向こうから、英司の申し訳なさそうな声。



「あたしなら大丈夫だよ。
日曜も仕事なんて、英司こそ体平気?

……うん、うん……それじゃあね」



通話の途切れた携帯を手の中でキュッと握りしめた。



しょうがない。

しょうがないよ。





英司と会えなくても、あたしにはこの指輪がある。

――だから、平気。



鏡に映ってる自分に気付いて顔を上げる。


その顔は、全然大丈夫ではなかった。

今にも泣きだしそうな、情けない顔をしてる。





「……英司……」




そっと言葉にしたら、もっと体中に広がる重たい感情。



喉の奥がツンとして、瞼が熱い。
それを振り払うようにグッと閉じた、その時。





―――ピンポーン




突然インターフォンが鳴った。




誰だろう……。


目じりに溜まった涙を拭って、携帯をベッドに置くと玄関に向かった。



「はーい」