人の波をぬって、英司の元に駆け寄った。




「おはよ、英司」

「おはよう。 ……菜帆、昨日はごめん」



ほんとに申し訳なさそうに、英司はそう言った。

いつもは、難しい顔をして手帳と睨めっこしてるのに。
今日は、あたしを待っていた。

あたしより先に、あたしを見つけてくれた。



なんだかそれだけで、胸がいっぱいだった。





「……いいよ、怒ってない。 英司が忙しいのはあたし、ちゃんとわかってる」

「…………」




押し黙ってしまった英司。

なんだかすごく切なそうに、その瞳を細めた。







「……明日の土曜。英司の手料理が食べたい」

「俺の?」

「うん」

「……」



英司はそう言ったあたしに驚いたように、その目を見開いて、それからふわりと笑った。




「……よし。じゃあ、俺の得意料理をご馳走するよ」

「うんっ」




それからあたし達は、会社までの道を並んで歩いた。



……明日、楽しみだな……。