えと……この信号を、左……。
ビル街から抜けて、住宅地に差し掛かっていた。
たしかこの辺なんだけど……。
道沿いには、昔からあるようなパン屋さんや、カフェなんかが点在していた。
そのどれもが、初めてみるはずなのに。
どこか懐かしさも漂う、雰囲気で。
ひとつひとつ確かめながら歩き、やっと見覚えのある森を見つけた。
「……」
ここだ。
あった……あたしの記憶、間違ってなかった……。
ジワジワと湧き上がる感情を抑えながら、あたしは森の中へ踏み込んだ。
千秋……。
ガサガサ
ガサガサ
暗い……こんなに歩きづらかった?
ヒールのないので来るんだった……。
後悔したその時。
「きゃっ」
張り出していた木の幹に躓いて(つまづいて)バランスを崩す。
咄嗟に両手を出して、なんとか顔からいかずに済んだ。
でも……。
「アタタ……」
見ると、膝が擦りむけて血が滲んでいた。
うっ
この年になって、こんなふうに怪我するなんて。
小さい頃はよく……
―――あれ?
胸の中で、何かが引っかかる。
なんだっけ?
あたし、前にもこうして木に躓いて転んだことがあった?



