ハッとして顔を上げると、真っ直ぐにあたしを見下ろしていたミツルさんは、丁寧に頭を下げた。


「千秋坊ちゃまを、このシガラミから救ってください」

「ミツルさん……」


その時、脇に黒塗りの車が停まった。
今朝のように、運転手が後部座席のドアを開けて待っている。

ミツルさんはそこにあたしを促すと、ニコリと微笑んだ。


「あなたはずっと変わってない」


へ?

それって……。


キョトンと顔をあげるのと同時にドアがバタンと閉められた。


窓越しのミルツさんはさっきと変わらずに穏やかで、爽やかな笑顔を湛えていた。

それから再び綺麗にお辞儀をする。

ミツルさんの動きに合わせて、なめらかに車は走り出した。




ミツルさんは、いつまでもあたしを見送ってくれていた。
それを見届けてから、ドサッと腰を落とす。

理解出来ない……。

千秋を、救う?



広い車内には、車のエンジン音とクラシックが流れていた。
どこかで聴いた事のあるそれに耳を傾けながら、あたしはグルグルと思いを巡らせていた。


千秋に会って、言いたい事はある。

あたし達、きっとまだ大事な事をお互いに言えてない。


ちゃんと言葉で聞きたい。

彼の口から、言ってほしい。


千秋は?

あたしの事、どう思ってる?



あたしは、あなたが好きだよ?

もうずっとずっと昔から決まってたみたいに。
この気持ちがしっくりきてる。


溢れだすこの想いが、千秋を救えたらいい。