でもなんでスーツなんか。

そこまで考えて、ふと思い出す。
この前、弟くんが言っていたこと。

『必ず来て欲しい。 必ず』

そう言っていた。

どこへ行くんだろう……。



「…菜帆は友里香の結婚式?」

「うん。挙式だけ参列するの」


このドレスどう?とスカートを手に取って千秋に見せた。
そんなあたしに、千秋はフッと微笑むとポケットにしまっていた手を出して髪に触れた。


瞬間あたしを包む、甘いムスク。

いつものシャンプーの匂いはしなかった。
今日は仕事場に行っていないからかな?

千秋の匂いは柑橘系のシャンプーと香水の香り。
それから、キスする時にだけほんのちょっとの煙草のほろ苦さ。

それがスパイスになって、あたしの胸をギュウウと締め付ける。




彼独自の媚薬だ。


伸ばされた手が髪をすき、伏し目がちにあたしを見下ろす彼から目が離せない。

気だるそうなその瞳の奥に隠された情熱的な色を、あたしは知ってる。


……だから?

もっと知りたいって。
知らない彼をもっともっと見たいって、そう思うの。