前の事?
あ……もしかしてこの前の美容院の事かな……。

思い出して、カッと頬が火照る。


「あ、あれはっ。千秋が生きてるのかを確認に……」


パッと顔を逸らして、缶ビールに手を伸ばす。

そんなあたしを見て、千秋はクスッと笑った。


「そうだった。でもさ、生存確認ならこっちに直接会いに来てよ。その方が嬉しいし」

「……」


嬉しいって……。
そんなふうにストレートに言われましても……。


てゆか家にも帰ってなかったじゃん。
……そうだよ。

だからあっちまで押しかけちゃったの。

ここにいるのがわかったら、美容院なんかに行かなかったよ。


……まあ、でも。

ああやって普段働いてるんだってわかって、ちょっと嬉しかったというか……。

そう思った事は悔しいから言ってあげないんだけど。



ブツブツ文句を言うあたし。


って、やば。
こんな話してる場合じゃないし。

早く自分の部屋に戻らないと、12時回っちゃう。


――『帰るね』


そう言おうとして、顔を上げた、その時だった。




えっ


不意に千秋の手が、目の前に伸びてきた。

そしてその指は、少し強引に、あたしの唇に触れる。