折り畳み傘を広げているその横顔を眺めていると、不意にその視線が落ちてきた。


「行かないのか?」

「え? あ……ちょっと中に忘れ物しちゃったみたい。ごめん、先に行ってて?」

「忘れ物?」

「うん」




ここで、英司を見送りたかった。

一緒に歩いてたら、もっと付き合ってた時のことを思い出してしまいそうだし。

それよりなにより、なぜかすごくひとりになりたい。




「今日はありがとう。 話せてよかったよ」

「……ああ。俺の方こそ」

「仕事!頑張ってね。お疲れ様」

「菜帆も、気を付けて帰れよ」

「うん!」



ニコニコ笑って、あたしは手を振った。


あたしの笑顔に押し出されるように、英司は店の軒先から傘をさして歩き出した。


バラバラ


雨の勢いで、英司の傘がそれをはじく音がここまで聞こえてくる。


行き交うたくさんの人々。

あたしのように屋根のある場所で、急な雨を凌いでいる人達がたくさんいる。

でも、それ以上に用意周到の人々が、傘の花を咲かせていた。


英司もすぐにその中に紛れて見えなくなる。




「……」


帰ろう。

帰ったら熱いシャワーを浴びよう。

それから、飲み直そう。


たしか、この前友里香さんが置いて行ってくれた良いワインがあったはず。


あんまり得意じゃないけど。
早く飲んでしまおう。


あたしはキュッと鞄を握りしめた足早に雨の中に飛び込んだ。