でも。


なんだろう、この気持ち。

確かに動き出してるあたしの気持ち。


もう、英司を向いていない。
そう思ってた。



……でも。


なんで?



シトシト

シトシトシト



まるで雨みたいに、どこからともなく降ってくる。

この感情……。





―――カタン


そして聞こえる。


カウンターに置かれた、その音。



「それじゃ、そろそろ行こうか」

「……ん」


お財布を出したあたしを英司は遮った。



「でも……」

「俺のワガママに付き合ってくれたお礼」

「……ありがとう。ごちそう様」

「ん」



フッと口角を持ち上げた英司。

そんな事言って、あたし英司と付き合ってお金払った事ないよ?
いつもそう。
そつなく、スマートにあたしをリードしてくれた。

一歩前を歩いてくれてて、あたしの行く道を示してくれた。


……英司……。




店の外に出ると、あいにくの雨。

しかも、結構降っていた。



あちゃー……。

完璧濡れるなぁ。
ま、でもここから駅までは、走って行けば10分もかからない。

そのへんで雨宿りしつつ行けば、そこまで濡れなくて済むかも。


勢いよく雨を降らす空を眺めていると、あたしの後に続いてお店から出てきた英司が言った。


「傘、持ってないのか?」


脱いでいた背広を羽織って傘を取り出し英司が言った。


「うんん。そうじゃないよ。ただ、雨がすごいなって」

「……ああ。そうだな」

「天気予報では言ってなかったのにね」

「通り雨だろ。すぐ止むさ」

「止むかなぁ」


変なの。

あたし、あんなに英司の事でビクビクしてたのに。
普通に話せてるや。