それからしばらくの沈黙。
そして、ふっと自嘲気味に笑った英司は、まるで吐き捨てるように言った。


「でもまさか、その裏で密かに俺と友里香の婚約話が進んでるなんて思ってもなかったけど」

「……」

「これでも色々抗ったんだけどな。それでも、無理だった」



――カラン


小さくなった氷が、形を崩して表面に浮かび上がる。


「仕方がなかったんだ。叔父の会社を俺のせいで潰すわけにいかなかった」

「……」

「どんなにもがいても、どうにもならない事があるんだって。手に入らない物もあるんだって、学んだよ」



握りしめた手が震えた。

胸が、ドクドクって鈍く鳴る。

喉が、カラカラみたい。

目の前のウーロン茶を飲みたいけど、なぜか体はガチガチに雁字搦めになってしまったみたいに、動き出せない。

なのに、目の前はグニャリとゆがんで。
瞬きをしたら、目の淵からそれは零れてしまいそうだった。

あたしは必死に、唇を結んでそれを抑える事しか出来なくて……。



「――――俺は」



……英司



「―――俺は今でも」



英司お願い、それ以上言わないで……。



「菜帆の事を……」



ダメだ……。
思わずギュッと目を閉じた。

全部、全部閉じ込めるために。




でも、それから少しの沈黙があって。
英司がフッと笑ったのがわかった。




「――菜帆」

「……」

「大丈夫。俺は菜帆を困らせたりしないから」



……え?