あたしの身体に、英司は熱だけを残して
何も言わずに去って行く背中。

遠ざかる足音。



『責めなかった』?

うんん、『責められなかった』。
だって、そのすべてが泣いてるように感じたから。

これ以上は、きっと何も言っちゃダメ。


そう思ったからだ。



「菜帆にプロポーズしてから、色々な事が起きたんだ」


あたしはたくさんの氷の入ったグラスを見つめていた。
相槌も打てなくて、ただ英司の話を聞くことにした。


「お世話になっていた叔父が、亡くなったんだよ……」



叔父さん?

初耳だ。


「叔父は、小さいけど会社を経営していて。友里香の……上条グループの頭取とも付き合いがあったんだ。先代から長い付き合いで、俺も昔から友里香とも友人関係だった」


……。


「その叔父が亡くなった事で、会社の経営が難しい状況になったんだ。そこで持ち上がったのが、上条グループとの合併話だった。
まあ、合併って言っても、はっきり言って吸収に近いんだけど」


そう言って英司は、ジョッキを傾けてコクリとビールを流し込む。

あたしはそれを視界の隅に入れて、グラスの中の氷が溶けていくのをジッと見つめていた。