「きき、気をつけろって言ってもね、これは不可抗力と言うか……あたしにはそこまで言えなかったというか」


思いっきりしどろもどろ。

体をかがめて、同じ目線になった千秋。
彼の真っ直ぐ射るような視線が、痛い。



「そ、それに別に、友里香さんが心配するような事はなにもないわけで。あたしはほんとに英司とは終わってるって言うか、なんていうか……あたし、あたしは……」


たぶん、千秋の事が……。

ここで、言ったら楽になるのかな?

あたしと英司の仲を心配してる友里香さんにも、あやふやな状態の英司にも、勘違いしてる千秋にだって。

うんん、誰よりもあたしにとってそれがいちばんいいんじゃないのかな。


今、このタイミングでこの想いを伝えられたら……。



「あのね、あたし……千秋が……」



その時、体にかかっていた力からいきなり解放された。
千秋が、あたしから距離をとったんだ。



「……」



拍子抜け。
ポカンと見上げると、千秋はさっさとあたしに背を向けた。



「とりあえず俺は帰るから。なんかあったら連絡して。いい?そんじゃ、おやすみ」

「えっ……あの……」



……バタン。


そして呆気なく閉まった玄関扉。

外から、千秋の声。
電話でもかかって来たんだろうか。


それにしても……ヒドイ……。

意を決したとたん、肩透かしをくらってしまった……。




茫然と立ち尽くしたまま、しばらくそこから動き出せなかったのは言うまでもない。