「そんな色っぽい顔、俺以外に見せないで」



吉田部長の背中を眺めていると、耳元にかかる甘い吐息にハッと我に返った。



「……っ……」



一気に頬が火照る。
部長に聞かれてなかったか、内心ヒヤヒヤしながら、ジトッと英司の顔を見上げた。



彼はこの状況を楽しむように、ほんの少し口角を上げるといつの間にか止まっていたエレベーターから降りてしまった。




「仲岡、ボヤッとするなよ」

「え……あ、はい!」




吉田部長は、何かを知ってるみたいにニヤリとして、英司と一緒に行ってしまった。



……。

……やっぱり、あたし達のこと、部長も知ってるのかな。
社内で知っている人は、倫子くらいだ。

プロポーズはされたけど、あたしたちが付き合っていることは秘密。


なんとなく、さっきの英司のキスを思い出して、あたしは持っていた書類をギュッと胸に押し込めた。





はっ!

胸の中で少しシワになってしまった書類に気付き、あたしは慌ててエレベーターのボタンを押した。