「英司さんを諦めて欲しいの!」


え?

キョトンと目を見開いたあたしに対して、友里香さんはいたって真剣そのもの。


「え、英司……さん?」


思わずおうむ返しにして、首を傾げた。


「千秋の事じゃなくて……英司……佐伯さんを?」


あたしの言葉に力強く友里香さんは頷く。

拍子抜け。

だって、てっきり千秋の事を言われると思ったから……。



「それと……ごめんなさいっ」


そう付け加えて、友里香さんはガバッと頭を下げた。


ええっ?

ギョッとしていると、友里香さんの肩にグッと力が入ったのがわかる。


「……ずっと謝ろうと思っていて。勇気が出なくて……。あの旅行での件、千秋に聞いてるんだよね?」

「あー……」


もしかして襲われそうになった、あの事?
その後の千秋の行動で、そんな事すっかり頭から飛んでいた。


曖昧なあたしの返事に、友里香さんは口をつぐんであたしを見上げた。


「わたし、あのサトシって男に菜帆ちゃんを口説くように頼んだの。あなたから千秋を遠ざけたのも、わたし。でも、あとから英司さんにすごい剣幕であなたに起こったことを聞かされて……。そんな事になってるなんて知らなくて……本当にごめんなさい!」


そう言って、また友里香さんはあたしに頭を下げた。


英司が……怒った?