カップにお湯を注いで、スプーンでそれをまぜる。
とたんにコーヒーの香ばしい香りが辺りに立ち込めた。

あたしはお砂糖を添えて、そっとテーブルに置くと、おずおずと腰を落とす。

チラリと視線をあげる。

目の前には、うつむいて、口をつぐんでる友里香さんがいた。


「……」


えっと……なんでこんなことになってるんだっけ?

とりあえず、あたしもコーヒーをすすった。
そうでもしないと、息がつまりそうだ。


でも友里香さんは、黙ったままテーブルの一点をジッと見つめていた。


思い出す。
沖縄に行った日の夜、たくさんふるまわれていた高価な食事。

彼女の口にはインスタントは合わないのかもしれない。


何も言わない友里香さんの視線が不意に動いた。





壁を気にしているみたい。


あ……。もしかして隣に千秋がいるのか気になるのかな……。

やっぱり友里香さんは……。


前に千秋が言ってたことは、間違ってたんだ。
本当は千秋を想っていて……。
それで今日は、その偵察に?

まさか……。
そんな子供じみたマネを、この社長令嬢がするんだろうか。



壁へと視線を這わせていた友里香さん。
その目が、またテーブルに落ち、そしてふいにあたしを捕えた。


大きくて、少し吊りあがった意志の強そうな瞳。
あたしは目が合っただけなのに、体の自由を奪われた気がした。

何を言われるのかと身構えていると、友里香さんの桜色の唇が動いて、小さな吐息と一緒に驚くような言葉が飛び出した。