―――バキッ!


え?

震えるようなその音がして、一気に体が軽くなる。

ハッとして上体を起こすと、すぐそこでなぜか悶絶してるサトシの姿が。

状況を飲みこめず固まっていると、誰かに肩を抱かれた。



「菜帆、大丈夫か?」



息を切らしてるその彼を見た瞬間、また涙が零れた。


どうして……どうして……?

なんであなたがここにいるの?

なんであなたがあたしを助けてくれるの……?



「……ッ、ぅ……英司……」


やっとそう言ったあたしを英司はギュっと抱きすくめた。


「もう大丈夫だ。もう、怖くない」


あたしよりも辛そうな英司の声に、鼓膜が震える。

強く、強く。
痛いほどの力に、あたしはどうしていいのかわからず、英司に腕を伸ばすことも出来ずに、ただ涙を流していた。


それからサトシは逃げるように走り去り、英司はあたしが落ち着くまでずっと抱きしめていてくれた。


しばらくして、あたしはモゾモゾと英司の胸を押しやる。


「あ……ありがとう。もう、平気」

「……」


英司は何も言わずそっとあたしとの距離をとった。
その隙間から、英司を見上げると、英司もあたしをまっすぐ見下ろしていて、そしてフッと目を細めた。


トクンって胸が軋む。


ああ、英司の笑顔……。
あたしが好きだった、あの笑顔だって。
胸がギュって痛くなった。