ウッと口元を抑えたのと同時。
誰かが背中をさすってくれた。
見上げると、千秋が顔を覗き込んできた。
疾走するクルーザーが、ゴウゴウと風を切る。
そのせいで声は聞こえないけど口が何かを言ってる。
「大丈夫?」
って言ってると思う。
ダメです。
フルフルと首を振ると、そっと背中をさすってくれた。
見ると、倫子もソファベンチに座ったまま強い風を受けて、しかめっ面。
しばらくしてやっとクルーザーは停まった。
さっきまで激しく揺れていたのが、まるで嘘のよう。
海は凪いでいて、風が心地よかった。
穏やかな水面に視線を落とすと、淡いピンク色のサンゴ礁が目に入った。
そこを色とりどりの魚たちが、自由気ままに泳いでいる。
キレイ……。
さっきよりも高くなった太陽。
そのおかげで、海の透明度も上がったみたいだ。
「菜帆、大丈夫?」
ぼんやりそれを眺めていると、倫子が心配そうに覗き込んだ。
「うん、平気。 さっきはほんと死ぬかと……」
顔を上げて、さっき千秋にもらったペットボトルの水をコクッと飲んだ。
冷たい感覚が、喉を通っていくのを感じる。
ここが、ポイントみたい。
すぐそばに入り江があって、船でしか来ることができなくなっている。
まさに秘密のビーチ。
映画で見たような真っ白な浜辺が見えた。



