すっかり日の落ちた町には、街灯がゆらゆらと灯る。
心もとない足取りで、ようやくアパートが見えてきてホッ息をついた。
あれ?
階段にさしかかったところで、先に帰ってたはずの千秋に追い付いていた。
少しためらって、さっきの千秋を思い出した。
フラフラしてたし……もしかして。
「あ、千秋っ」
あたしの呼びかけに反応して、ゆっくりと振り返った千秋の顔は……
「えっ ど、どうしたの、千秋?」
「ああ、菜帆。 どうしたって、なにが?」
キョトンとするその顔にグッと手を伸ばした。
ビクッと一瞬身構えた千秋だったけど、あたしが頬に触ると見開いていた目をグッと細めた。
「……いきなりなんスか」
うっ
そんな顔しなくても……。
自分は耳にキスしてきたくせにぃ……ってちがーう!
今はそんな事どうでもいいの!
相当嫌だったのか、眉間にシワを寄せた千秋から、慌てて距離をとる。
「あ、ごめ……。でも千秋すっごく熱い。 熱あるんじゃない?大丈夫?」
「熱ぅ? ああ、そういやちょっとフラフラするかも」
何度も瞬きをして、思い出したみたいに宙を仰ぐ。
「ふうん。それで早く帰されたのか……」
えええ?
「ま、いいや。そんじゃ」
「え? ちょ、ちょっと!」
相変わらずフラフラしながら部屋に入っていく千秋の腕を思わず掴んでいた。



