仕事を終えて、ようやく帰路につく。
駅までの道のりが、やたら遠い。
ずっと座りっぱなしで足、浮腫んじゃった……。
加圧ソックスはかなきゃ。
でも、足が重いのは、それだけが原因じゃない。
「はあ……」
カバンも重い……。
倫子に渡されたパンフレットが、あたしの肩にグイグイ食い込んでくる気がした。
『何かの縁だし』
そう言った友里香さんの笑顔が、脳裏をかすめた。
友里香さんは、あの後あたし達にこう言ったのだ。
『知り合いが別荘持っててね?
そこなら、部屋数も余るほどあるし、プライベートビーチもあるの。
私もそこへ行くんだけど、よかったらどう?』
どう?……って。
あたし、なるべくなら、友里香さんに関わりたくないんですけど……。
そう思ってはみても。
倫子は即オッケーしちゃうし……。
無理無理!って言うあたしに、
『この旅行で気持ちにケジメつけてもいいんじゃない?
宿泊代はいらないって言ってくれてるんだし、甘えちゃおうよ』
だって。
倫子は断然後者でしょ?
……まあ、泊る場所だけ提供してくれるって話だから。
いっか……。
海かあ。
実家の近くも海だけど、それとはまた違うもんね。
うん、せっかくだもん。楽しまないとね。
なんて、どこかワクワクしてくる自分がいた。
おし!気分変えよ!
そう思って、顔を上げた先に、見覚えのあるふわふわの黒髪が見えた。
あ。
ドキン
見つけるのと同時、勝手に体が反応する。
あれは、千秋だ……。