シュガー&スパイス



「菜帆がんな顔すんなって。
もうガキの頃の話なんだからさ」



まるで少年のように笑って、あたしの髪をくしゃっと撫でた千秋。



トクンって、胸が疼く。
触れられた場所が、熱を持った気がした。


恥ずかしくて「だって……」と押し黙ったあたしを見つめて、千秋の顔からそのあどけなさが消えた。



ドキン

また心臓が跳ねる。




「……でもさ。最近わかったんだ」

「え?」

「諦めなければ、願いは叶うって」







それって、お仕事の事?

髪をするりと撫でられて、またまた心臓が跳ねあがる。
千秋のその指は、毛先をクルクルと弄ぶ。

わけがわからずにドキマギしてるあたしに、千秋はニコッと笑うと、またその体を椅子に投げ出した。


???



「俺さ、18ん時に家出たんだ。
ほんとはもっと前から出るともりだったんだけど
許してもらえなくて。

家出て、自分で働いて、金稼いで。
なんとか親父の世話になんないようにって」



そうだったんだ……。



「でも結局…………」



そう言って、足元に視線を落とすと、はあとため息をもらす。



「働き口なかなか見つからなくて
親父のコネがきく店で、バーテンダーとして雇ってもらって。
んで、ある程度稼いで、アパート借りて」

「美容院はどうしてたの?」

「ああ、それは高校出て、そのまま見習いで雇ってもらった。最近やっとカットの練習させてもらえててさ」



ははって少し恥ずかしそうに笑う。
「俺って情けねぇー」って言いながら、髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。


いつも自分の事話さないのに、今日はすごく話してくれるな……。
パーティに行ったから、だよね。

なら、あれも聞いちゃっていいかな。
うん、いいよね。


ドキン



「……もういっこ、聞いていい?」

「ん? なに?」



小首を傾げた千秋の髪が、くしゃくしゃのまま。
子供みたい……かわいいな……。