日が落ちても、真夏の夜はムッとした熱気であたりを満たしていた。
ホテルを出たところで、やっと足を止める。
あたしはようやく息をついた。
「……千秋……ごめんね。あたし……」
「うんん。
あ、そだ。菜帆、もうちょっと俺に付き合って」
ギュッと握られたままの手に、また少しだけ力が込められた。
あたしは千秋に連れられて、林の中を歩いていた。
ホテルから、20分程度だ。
何も言わずに、ただ前を行く千秋の顔は、頭ひとつぶん以上高くて確認する事は出来ない。
でも、あたしは黙って歩いた。
繋がれてる手が、あったかくて……すごく心地よかったからかもしれない。
どれくらい進んだんだろう。
目の前が急に開けたかと思うと、そこに古びた小さなレンガ造りの建物が姿を現した。
振り返った千秋が、ふわりと笑う。
風と一緒に、彼のシャンプーの香りと、甘い香水の香りが鼻を掠めた。
「着いたよ」
そこは。
「……教会?」
都心の真ん中
そこに、まるで時代に置いていかれたみたいな
古い、古いおもちゃのような教会。
手入れされなくなってずいぶんたつみたい。
教会の周りは、たくさんの草花で溢れていて、押し迫る木々から見える夜空は、そこだけハサミで切り取ったように、ぽっかりと穴が開いていた。
わあ……素敵。
立ち止って見惚れていると、隣で千秋が笑ったのがわかった。
誘われるように見上げると、夜空から見下ろしている月明かりに照らされた千秋が、スッと手を引いて、あたしをエスコートする。
「ようこそ、姫。 我が城へ…………なんちて」
ドキっとしちゃうような顔のあと、ニッと笑った彼に思わず吹きだしてしまった。



