「………………」
あの女ダレ?
きっと、この場の誰しもそう思ってる。
腹が立ったとはいえ……。
いくらなんでも、千秋の親戚……。
場をわきまえなくちゃいけないのは、そう……このあたし。
あたしの後ろに立つ千秋の事、恐ろしくて見れない。
そりゃあ、今あたしの目の前にいる人達と同じ顔してるんでしょ?
目を見開いて、口をぽっかり開けて。
信じられないものを見る、そんな顔。
ギュッと握りしめていた手が、冷たくなっていく。
背中をツーっと嫌な汗が伝う。
あ、穴があったら入りたいぃぃい
体中が、まるで熱を持ったみたいにカッと熱くなる。
周りの視線から耐えきれなくなってうつむいた、その時だった。
握りしめて冷たくなってしまった手が
ギュッと強い力で引き寄せられた。
後ろにバランスを崩し、トンと背中が当たる。
見ると、
「ほんと。言いたい放題」
「えっ」
呆れたようにため息をついた千秋が、ジロッとあたしを睨む。
「俺、褒められたの?」
「ええっ 褒めた褒めた!」
慌ててコクコクと頷いた。
そんなあたしを見て、千秋は、照れくさそうにハニかんだ。
それから、グッと肩を抱かれ、頬を寄せる。
ドキ!
え、ち、近い!
そして、ニッと笑うと、今だに茫然としている群衆に向かってこう言った。
「俺は、この人がいれば他になーんもいらないから」
ええっ
耳元でそう宣言されて、ボンって顔が赤くなった。
「んじゃ、行こ!」
「あ、うん」
あたし達は、そのまま会場を出ると、ホテルから飛び出した。



