あ!
そんなとこより、携帯携帯……。
英司に連絡入れとかないと。
まだ時間がかかりそうだと思ったあたしは、バッグの中から携帯を取り出した。
と、その時。
「あら、千秋? 千秋じゃない?」
今度は、鼻にかかる甘い声。
振り返ると、そこにいた人物に思わず持っていた携帯を落としそうになってしまった。
あ、危なかった……。
でも……こ、この人って……。
「あー、友里香さん。久しぶり」
ドクンッ
“友里香”
純白のミニドレスを身に纏った清楚な女性。
艶やかな黒髪をたなびかせ、妖艶ににっこりと微笑んだ。
彼女は今会社で噂の、社長令嬢。
そう……英司の、婚約者……。
「本当に久しぶり。どうして今まで顔出さなかったの? 心配してたのよ?」
「俺も忙しくて」
「いくら忙しくても、あなたの家の会社のパーティくらい休めるでしょ」
「はは。ごもっとも」
ふたり……知り合いなんだ……。
なんとも親しそうに話す二人を、ただ見守るしかできない。
なんだろ、この感じ……。
喉の奥が、苦しい。
胸が、重たい。
この人が、英司の恋人だからかな……。
だから、あたし……
体中が錆びちゃったみたいに、身動きとれないの?
小首を傾げて、楽しそうに笑う千秋に、クスクス肩を揺らす友里香さん。
美男美女ってこの事だ……。
「この後のダンス、彼女と踊るの?」
ダンス?
そこでようやく我に返る。
顔を上げると、友里香さんの瞳があたしをしっかりとらえていた。
ドキッ
ナチュラルに近いメイクなのに……すっごくキレイ。
思わず見とれてしまった。
「……あ、あの……ダンスって……」
口ごもると、友里香さんはニッコリ微笑んだ。



