「……いや、今日は千秋君がいるんだから、お父上もご機嫌だろう。
それに、こんな可愛らしいお嬢さんが一緒なんだからな」
えっ
あ、あたし!!?
二人の傍で、会話についていけずただ立っていたもんだから、驚いて思わず飛び上がりそうになる。
「…は、はじめまして……」
なにかうまいこと言えればいいのに、あたしの口からは、これ以上なにも出て来てくれなった。
恥ずかしい……。
でも、こんな口下手つまんないってこのまま行ってくれれば……。
「おお、緊張してるの?素直で可愛いねえ。君、名前は?」
「えっ、あの……」
ひえええ!
逆に興味持たれた!?
なんでぇええ?
「そんなに慌てなくてもいいさ。
源氏名で構わないよ」
「え?」
源氏名?
「どこのお店? こんな可愛い子がいるなら、今度遊びに行かせてもらおうかな」
「お店? あの……」
なんか勘違いしてる?
あたし、ただのOLです。
お酒が入ってるんだろうか。
夏目さんと言われたこの人が、体を寄せただけでアルコールの匂いに包まれた。
うッ
目がエローい。
千秋の立場があるからなにも言えないけど、もしそーじゃなかったら、シャンパンぶっかけてやるのにッ
ムッとしていると、あたしの視界を遮るように千秋が入ってきた。
「その辺にしておいてもらえませんか?
彼女は僕のパートナーです」
語り口は柔らかでも、声色で今千秋がどんな顔をしてるのか想像できた。
夏目さんは少しだけたじろぐと、「ふん」と鼻を鳴らして去って行った。
その背中を見送って、肩越しに千秋の横顔を覗き込んだ。
「……助けてくれて、ありがとう」
「……。いや……ごめん」
そう言ったあたしをじっと見て、それから大きくため息をついた。
……?



