あたしの主な仕事は、企画書なんかの打ち込み。


あとは、物品の発注とか。
お茶だしとか。


いつもならスムーズにこなせるはずが……。
なぜか今日は手につかない。


それもこれも、全部英司のせいなんだから。





物品の発注の打ち込みも間違えてばっかだし。
企画書なんて誤字脱字で上司に睨まれちゃうし。

お茶を頼まれても、ポットのお湯で火傷。

自販機で、間違えて『フルーツ・オレ』を買っちゃうし……。
好きだけど……甘くて大好きだけど。
あたし決めたんだもん。英司に釣り合う大人の女の人になるって。
だから、あたしが欲しいのは『紅茶の無糖』なんだってば!



「はあ……」

あたしってば、浮かれすぎ。
頭の中は、アフターファイブの事でいっぱいだ。


給湯室の流しに両手をついて、大きく溜息を漏らす。


なんか無駄に疲れた……。
肩に大きな重荷を乗せられたような気がして、あたしはがっくりとうな垂れた。




「大丈夫? 菜帆は今日厄日なんだから、大人しくしてないと」

「へ?」



そう言って、俯いていたあたしを覗き込んだのは同期で同じ年の倫子(りんこ)だ。




「やくび?」




ストレートのあたしとは正反対の、フワフワのボブヘアを揺らして、倫子は真剣な瞳であたしを見た。