予想もしてなかったその名前の登場に、ギョッ!と目を見開く。
そんなあたしを見て、フフフと笑うと、倫子はさらに続けた。
「前に実家に一緒に行ったんでしょ?どうだったの?」
「どうって言われても、お父さんもお母さんも大喜びで、お盆にまた連れて来なさいって張り切ってる」
「へえ、気に入っちゃったんだ」
両親は気に入っちゃってるかもだけど、あたしは別に。
千秋には悪い事したなーとか。
迷惑かけちゃったな、とは思う。
でも、それだけで、
だから、あたしは、別に。
「その時、なにかあったんでしょ」
ドキ!
「隠したって無駄なんだから。
白状しちゃいなって」
「な、なにもないって。
てゆかあるわけないし?あ、あったら困るし」
その時ふと、淡い月明かりの中
伏し目がちの千秋の顔が、浮かぶ。
あ、あれは違う違う!
「キスなんてされそーになってない!」
「ほほぉ」
うわーー!
なに口滑らせちゃってんの、あたし!
「詳しく聞かせてもらおうか?」
意地悪な笑みを浮かべてあたしに迫る倫子。
り、倫子って……実はS?
顔はもう守ってあげなきゃって思っちゃうほど、ドMって感じなのにー!
まさか、それ?
倫子が彼氏出来ない理由って、それなのっ?
ホラホラってにじり寄る倫子に苦笑いを浮かべるしかなくて。
「言っちゃいなって。 落ちちゃったの? 彼に」
おっ
落ちる? 落ちるってなにっ?
「だ、だからね? だからそれはぁ」
と、その時。
給湯室を、誰かが覗いた。