「菜帆………」
揺れる瞳。
瞬きするたび、その中がキラキラしてて。
瞬きも出来ないよ……。
ドクン
ドクン
そして、薄く開いた唇の向こう側に、真っ白な歯が見えた。
ドクン!
ドクン!
「…………やーめた!」
え?
パッと離れた千秋。
そのままゴロンと布団に足を投げ出した。
「ここで初ちゅーしたら、たぶん俺、罪悪感で死ぬ」
…………。
「菜帆?」
「喉乾いちゃった!……あたしお茶、飲んでくる!」
そう言って部屋を飛び出すと、転げるように階段を下りた。
一気に駆け下りて、キッチンの扉を開けた。
真っ暗な部屋を照らすのは、窓から差し込む月明かりだけで。
あたしは、そこでようやく息をついた。
「はぁ……はぁ…………」
激しく鼓動を刻む心臓に、息が上がる。
わかってる。
こんなに苦しいのは、慌てて降りてきただけじゃないって事。
あたし、さっき、何思った?
千秋の手が、想像してたよりもずっとやさしくて。
髪をすかれてて、どう思ってた?
「こんなの…………ずるいよ……」
湧きあがる感情を、認めたくない。
あたしはぎゅっと胸に手をあてて、それを押し殺した。