「あ、あたし、ボーっとしてた?」
チラリと上目づかいで見上げたあたしに、千秋は真顔でコクコクと頷いた。
「してた、してた。 白目になってた」
「え!? 嘘! そんなにひどかった?」
バッと両手で頬を押さえる。
ひえええ。熱い……。
んとあたし、なに考えてんの……。
もう、ばかばか!
白目……。
千秋を見入るなんておかしいはずだ……。
ああ、もう。
自分が、怖い……。
ひとりでブツブツ言っていると、いきなりヒョイと覗きこまれた。
「っはは。冗談だよ。
すっげかわいい顔してたから、正直焦った」
「…………」
カアアア
……な、なにこの人。
屈託なくそう言って、首を傾げられても……こ、困るんですけど。
真っ赤になったあたしはまるで、苦しくて息ができなくなった金魚。
「あー、でも惜しいかったな。
もうちょっと菜帆がボーっとしててくれたら、唇に噛みついてやったのに」
「!!!!」
そして。
わざと歯を見せて、噛みつくそぶりをしながら
「ガオー。 なんつって」
目を見開いたあたしに、千秋は再び上体を寄せて。
意地悪にニヤリと笑った。
「……だ、だめ!絶対ダメっ!
もも、もし、なんかしたら大声出すからっ」
「はは!」
慌てて千秋から距離をとる。
必死になってるあたしとは裏腹に、楽しそうに笑う千秋に、文句を言いたくてもそれ以上なにも言えなくなってしまった。
「~~~」
ああ、もう!
なんなの? なんなのよおお!!!



