なによなによ、な、なんなの、ほんと……。
メイク落としをガバッと掴んで、コットンに押しつけた。




「……」




ふと鏡の前の自分と目が合う。


……か、顔が赤い。

でも、これは!
お酒のせいなんだから!


手にしていたコットンでさっとグロスをぬぐう。




はあ……。




勝手に脳裏をよぎる。

唇に息がかかりそうな距離の、千秋の顔。
今にも落ちてきそうなその唇に、身動きも取れなくて。


ただ、金縛りにあったみたいにドキマギしてると、いきなり吹きだした千秋の息で前髪が乱れた。



『……っはは!ジョーダン。 オオカミになるのはまだとっとく』



って、そんな本気とも冗談ともとれる捨てセリフを吐いて、さっさと部屋に引っ込んでしまった千秋。


誰もいなくなった深夜の廊下。
あたしは、しばらくその場から動けなくて。

ただわかるのは、ボンと跳ね上がった体温と。
千秋によって、爆発的に上げられた、心拍数。


って、なんであたしが惑わされてるのよ。
ちょっと優しくされたからって、ダメダメ。


前髪をピンでとめ、メイクをしっかり落とす。




「……しっかりしなきゃ」




そうひとりで決意してみる。



開け放った窓から初夏の風が
ふわりとカーテンを揺らした。