人差指で胸板にそっと触れながら。
「おねーさんをからかうとどうなるか……わかってる?」
上目づかいで、にっこり微笑む。
妖艶……のつもりで。
ふふふ。どーだ!
大人の女っぽいでしょっ。
年下なら年下らしく、もう少し可愛くなりなさいっ
「……」
「……」
……って。
あ、あれ?
色っぽく言ってみたけど、効果なし?
真顔で見下ろされ、微動だにしない千秋。
反対にあたしがたじろいでしまう。
一歩引いた瞬間、いきなり手首を強い力で掴まれた。
――!
「……あのさ。 世の中、アンタが思ってるほど甘くないから」
「え?」
「今日のアンタ、隙だらけ。 道端でひとりワンワン泣いてるわ。 酒飲んでじゃれつくわ。 あげく、俺を誘惑するつもり?」
「ゆ、誘惑って、そんな……」
掴まれた腕をさらに引き寄せられて、目の前に影がおちる。
さっきまでの無邪気な笑顔はすっかり消え、かわりに真っ黒な笑みを浮かべる千秋に心臓が跳ね上がる。
ドクン ドクン
「菜帆にその気がなくても、俺にはそう感じる」
「…………」
「いいの?ほんとに。
俺、アンタノコト食っちゃうよ?」