「ゴクッゴクッ……プハァ! ……ふざけんじゃないってのよ!」
ダン!
持っていたビールジョッキを、思い切りテーブルに置いた。
「意味がわかんない、いきなりなに!? 別れようなんて、そんな一方的な終わりある? なんの前触れもなく? 本当に……?
ほんとうに……前触れ……なかったかな……」
薄暗いオレンジ色の照明が落ち着いた雰囲気のバー。
ほぼ満席で、あたしの大きな声に他の客がちらほらとこちらを見た。
それぞれのテーブルをほのかに照らす程度の照明は、なんだか艶かしく感じた。
周りを見渡すと、カーテンで仕切られた個室には、カップルばかり目につく。
「……くやしい。うぅ……」
なんだか無性に虚しくなって、まだ半分残っているビールを口に運ぼうとしたその時だった。
それは、いとも簡単にあたしの手から抜き取られた。
ちょっとぉ、何すんのよー。
眉間にシワを寄せてその手の主を睨む。
今のあたし。
すっごく悪い顔してると思う。
「菜帆って、飲むと泣き上戸になんだね」
カウンターに並んで座る千秋が、呆れたようにそう言って苦笑した。
……む。
「うっさいな。ほっといて。もう、ビール返してッ」
「ダメ。 つか、飲み過ぎだろ」
「そんな事ないもん!まだ飲める!」
「……」
驚いたように口をつぐんだ千秋の手から、再びジョッキを奪い返し、あたしはそれをグイッと飲み干した。
ゴクン。
それにしても……。



