有無を言わさぬ、千秋の視線。
真っ白なケープを持って、ジッとあたしを待っている。
……。
…………。
ま、負けそう……。
いやいや、こんな強引なヤツに負けるもんか!
……。
渋々椅子に腰を落とす。
な、なによぉ。
なんであたしが……。
ふと顔を上げると、鏡にうつる自分と目が合ってドキリとした。
……こんな姿してたの……あたし。
泣きはらして腫れた瞳。化粧なんかとっくに落ちてしまっている。
直し切れていない服。髪はぼさぼさだし、本当にヒドイ。
千秋はサッとあたしの首にケープを巻いて、そっと髪を持ち上げた。
こんなあたしを笑うこともせず、だからといって訳をきくわけでもなく。
千秋は丁寧にあたしの髪に触れる。
「……」
今になって、思い出してしまった。
『菜帆の気持ちに割り込めたなら、それでいいや』
あれって、どういう意味だったんだろう。
ただの気まぐれ? 悪いジョーダン?
いつもみたいに、あたしのことからかってた?
わからない……。
その時、ふと千秋が顔を上げた。
鏡越しに目が合って、慌てて手元に視線を落とす。
理由なんて、どーだっていい。
あたしには、関係ない。
いくら千秋がホストじゃなかったとしても。
女の子、家に連れ込んでたりしたのには変わりないんだし。
きっと、そーいう軽いヤツ。
本気にしたりしたら、きっと笑われる。
あたしの髪をくしでときながら、髪質をチェックしている千秋を今度は気付かれないように盗み見た。



