シュガー&スパイス


ああ、もう!
早くどこか行っちゃってよ!

今は千秋にかまってる余裕ない。



「……」



震えた唇をキュッと噛み締めて、手の甲で押さえつけた。



それでも、あたしの涙は止まってくれなくて。

次から次へと流れ落ちるそれは、そのままアスファルトに滲んで、なにもなかったように消えてしまう。

それをジッと見下ろしたまま、グチャグチャの頭で考えてなんとか考える。


強い視線を感じて、いたたまれない。
どうしてまだ、そこにいるの……。




「……あの、どうぞ、行ってください……気にしないで」


……あはは。
声、震えちゃった……。


「……いや気にするでしょ」


頭上で小さなため息がこぼれた。
ため息とともに吐き出されたその言葉に、少し冷静になった自分がいて。

仕事帰りの人、これから飲みに行くであろう人。
金曜日の夜の街は、特別華やいで見えた。


そんな中、たったひとり立ち止まって泣いているあたしに気付き、少なからず視線を感じた。



「どうして、千秋がここに……」

「俺も仕事」



そう言った千秋は、一歩前に歩み寄った。



「……」



まるであたしをまわりから隠すみたいに。

そーゆうとこ、なんかすっごく嫌。
全部見透かされてる気がして、恥ずかしくなるよ。



グイッと頬の涙をぬぐって、千秋を見上げた。



仕事って、こんな遅くまで?

ああ、そっか……“呼び込み”ってやつか。


ホストって、大変なんだな……。

ジッと見上げていると、それに気付いた千秋が視線を落とした。




あれ?