「…………」
辿り着いた病室の前で深呼吸をして、
そーっと、ドアを開ける。
「……失礼しまぁす……」
そう言いながら そろりと足を踏み入れると、
病室の中には貴史も、凛も、蓮すらも、見当たらなかった。
ただ この部屋の主だけが、
ベッドに横たわっているのが、見える。
一人には広すぎるような その部屋で、
″深谷 香澄″は静かに、窓の外を眺めていた。
「…深谷…香澄くん、…ですか?」
普段だったら知らない人に なんて話し掛けられないのに、
貴史の事を心配する あまり、和は自分から声を掛けていた。
香澄は ゆっくり と、窓の外から和へ視線を移して、
不思議そうな顔で、和を見た。
「あの、私…和って言います。
凛ちゃんから聞いてませんか?
凛ちゃんの、友達です」
和が一気に そう言うと、
香澄も一瞬で、笑顔に なった。
「あー うん、聞いてるよ!
来てくれて、ありがとう」
貴史と同じ穏やかな笑顔で、
しかし貴史とは違う、人好きの するような笑顔で、香澄が言った。
「和ちゃんは今日は来られない って聞いてたから…
来てくれて、嬉しいよ。
…あ、でも
凛ちゃん だったら、さっき帰っちゃったよ?
もう ちょっと早かったら、会えたのに」
和は香澄が、会って数分も経っていなかったが、
とても人当たりの良い人だと、思った。
しかし、貴史と似ているのに全然 違うような、
何とも言えない不思議な雰囲気を持っている人だ、とも思った。

