しかし その気持ちを口にする事も出来なくて、和が無言で貴史を見つめて居ると、

遠くの方で、静かな廊下を ぱたぱた と 走って来るような、足音が聞こえた。






「…やべ」




「どうしたの?」






「これ…聞かれたっぽいわー笑」




貴史はピアノに視線を移して言った。






「えっ…」




″どうしよう?″と言うように貴史を見ると、

貴史は和の手を掴んで、言った。






「…ほら。


逃げるよ」




…そんな貴史の手が、

思ったよりも ずっと、温かかくて…


人形みたいな彼の、その体温にすら、和は愛しさを感じた。