屋上から下って、渡り廊下を進み、
また階段を上がって、
辿り着いた先は、
この時間は どこのクラスも使っていない、音楽室だった。
「……………」
「……来て」
黙りこくって居る和を、貴史が促す。
手を引かれた訳でも ないのに、
その瞳に捕らえられたまま、
和は ふらふら と 貴史に付いて歩いていた。
貴史は和をピアノの椅子の前まで連れて来ると、
そこに和を立たせたまま、自分は椅子に座った。
その至近距離に、
思わず頭がクラクラした。
普通は弾く方が緊張する筈なのだが、
明らかに自分の方が緊張している、と和は思った。
貴史の綺麗な横顔が近くに在り過ぎて、
心臓が飛び出しそう だった。
そんな中、貴史が弾き始めた曲は、
和の緊張とは裏腹に、
静かな、心が洗われるような音色で、
和は思わず緊張していた にも拘わらず、
その音色に聴き入っていた。
癒されるような、物悲しいような、
涙が自然と流れて来るような その曲は、
なぜか和の、貴史に対するイメージそのもの だった。