「和ちゃん!」




その時、突然 教室のドアが開いて、自分を呼ぶ声が聞こえたので、

和は思わず声のする方を、振り返った。


そこには、走って来たのか、息を弾ませたままの蓮が立って居て、

和と目が合った途端に、安心したように顔を緩ませた。






「…よかったぁ」




「…先輩?」






「和ちゃん、鞄 置いたまま居なくなるんだもん。


学校中、探しちゃったよ~」




そう言って笑う蓮に、申し訳ない気持ちで いっぱいに なる。






「…ごめんなさい」




「ううん。


全然 気にしてないよ!


…さっ、帰ろ♪」






「…あ、はい…。


いや、あの…」






正直、和は″貴史の側に居たい″と、思っていた。


事実、蓮が来なかったら、

和は まだ貴史の側に居た、だろう。


しかし、どうしようか と 貴史の顔を振り返った時、

和の″側に居たい″という気持ちは、見事に打ち砕かれてしまった。






「…行けば?」




その端正な横顔からは、表情は読み取れなかったが、

和は また冷たく突き放されたような…気が、した。


…気付いたら、

和は蓮を連れて、教室を飛び出していた。