「…宗谷くんは、何してたの?


まさか、忘れ物…じゃない、よね 笑」




何とか会話を続けていたくて、和は言葉を紡ぎ出した。


それに対して、自分の事は あまり訊かれたくないのか、

貴史は曖昧に笑った。






「…あー、うん 笑」






思えば、貴史は いつも そこに一人で居る理由を、話したがらなかった。


訊きたい事は山ほど あったが、

貴史が また笑ってくれなくなる事が怖かったから、

和は他の話題を探そうと、頭を一生懸命 回転させた。






「えと…」




「………」




しかし、考えようと思えば思う程、

訊きたい事ばかりが浮かんで来てしまう。


他の話題が思い付かずに あたふた する和を、貴史は黙って見ていた。






「あのー…、えーっと…」




「…………」




焦って何か話そうとする和に、何も話さない貴史。


どの位の時間が経っていたのか分からなかったが、

和には とても長い時間のように、感じられた。




何か話したいのに、

まだ一緒に居たいのに、

できない自分が、悲しかった。


こんな自分を見て、

貴史は自分を嫌いになる、だろうか…?




…この時、

自分の気持ちで いっぱい いっぱい だった和は、

自分の事ばかり考えていて、

貴史が寂しそうな顔を している事に、気付かなかった。






「…あの…、私、もう帰るね」




だから和が沈黙に耐え兼ねて そう言った時、

貴史が言った言葉を、和は俄かには信じられなかった。






「…もう少し」




「…え?」






「…もう少し。


此処に、居てよ」




それは、貴史が初めて見せた弱さのように、思えた。