「…また」
「ん?」
「また、ピアノ弾いてくれる?
宗谷くんのピアノ、ちゃんと聴いてみたい」
和は少しでも長く貴史と話して居たかったのと、
また話す きっかけが欲しかったのと で、
ピアノの話題を持ち出した。
しかし和の意図に反して、貴史の表情は一瞬 曇り、
それを押し込めて笑ったように、見えた。
「…人に聴かせるようなのじゃ、ないから。
悪ぃね」
怒っている訳ではない と 思ったが、
その声音は どこか、素っ気なかった。
それは一番 最初に感じた、他を寄せ付けない冷たい雰囲気の貴史で…、
その言葉を聞いた瞬間、和は見えないバリアに跳ね返されたような、暗い底に突き落とされたような…
悲しい感覚に陥った。
せっかく彼と話せたのに、
彼が好きだと確信したばかり だったのに、
きっと もう、貴史は此処には来てくれない…、
そんな気がした。

