″またね″と言ったきり、

貴史が再び和に話し掛けて来る事は なかった。


いつもクラスの誰かと話して居るか、

そうで なかったら女子から呼び出されて教室を離れている貴史に、

和に話し掛ける時間なんて無い事は、よく分かっていた。




…分かっていたが、寂しかった。


和は″また″を期待していたが、

貴史は そんな約束を覚えていない かもしれない、と考えると、胸が痛んだ。






そうして和は よく、放課後の教室に一人で残るように なった。


大勢の前で話し掛けると

ファンクラブの女の子達の視線が痛いのは分かっていたし、

何より普通に話し掛けて 返して貰えない事が怖くて、

昼間の教室では貴史に話し掛けられなかった。


二度とも貴史が一人で教室に残って居た時だったから と、

また二人きりに なれるのを どこかで期待して、和は放課後の教室で待ち続けていた。


しかし あれから貴史が教室に残る事はなく、

何の変化も ないまま、月日は過ぎていった。






…3度目は、音楽室。


あれから もう どのくらいの月日が経ったのか、

和自身 分からなくなっていた ある日、

放課後の、やはり誰も居なくなった音楽室に、貴史は居た。