「…じゃ、俺そろそろ帰るわ」




そう言って貴史が立ち上がった時、

和は あの時と同じように、反射的に″帰って欲しくない″と、思った。


そして思わず″行かないで″と言いそうに なったが、

慌てて、口を噤み…

言い掛けた言葉を飲み込んだ。






「そっか…。


引き留めちゃって、ごめんね?」




未練を心の中に押し込んで笑顔で そう言うと、

貴史は少し不思議そうな顔を してから…笑って、言った。






「…また、ね」




「うん。


…また」




ふわり と 甘い香りを残して、貴史は去って行った。


和は暫く、貴史が出て行った教室のドアを、見つめていた。